2004年10月20日

誰も知らない -フィクションの臭い-

大学時代の友人から、「誰も知らない」の感想が、
メールで送られてきました。

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もやもやしていて、早くまとめたかった、
「誰も知らない」の僕なりのレビューを書いてみたんだけど、

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とのこと。
折角なので、このblogに載せることにします。
映像には映らない"臭い"を軸に、映画を分析しているのがユニークです。

誰も知らない を遅ればせながら観た。
是枝監督がフィクションであると言っても
実際の事件のことを考えざるを得ない。
事件の起こったのは1988年、西巣鴨。
当時、7歳だった僕が住んでいたのが北大塚。
目と鼻の先ほどもないくらい近所。
同じ公園で遊んでいただろうと思う。
もちろん、彼等は幼稚園や小学校にはいなかったわけだが。

観てから一週間近く経つが、ずっと印象に残っているシーンがある。
それは、中学校の前に友達を誘いにいった主人公(明)に対して、
「だってあいつの家、臭いんだもん」
「ゴミの臭いがするんだ」といったような言葉を
少年たちが言うシーンである。
健気に子供たちだけで生きる彼等の姿と、それを写す映像美から、
臭いについて全く無意識だったことを気付かされた台詞だった。
世間から存在を隠すために、洗濯物を外に干すことが出来ない。
日に日に増える生ゴミ。
電気が止まり、水も止まり、
汗を洗うことも出来ず、風呂はトイレと変わらなくなっている。
母親の居た幸せな時に、明が作ったカレーの匂いから
汗と生ゴミの混じった臭いへ、徐々に変化していく生活。
その臭いを彼等は意識していない。
なぜなら、彼等にとって世界の全てだったからだろう。
声変わりもして、思春期に入ったからでもあるが、
唯一、部屋の外の世界と接点のあった明だけ
自分のシャツの臭いを気にするシーンがあった。
しかし、京子は「なにしてるの?」と無意識である。
母親が家を出ていく前夜、酔って帰ってきた母親に対し、
お酒臭いと眉をひそめた反応が対照的で非常に痛々しい。

WEBで調べただけの知識でしかないが、
実際に起こった事件と映画が異なる点がいくつかある。

1つ目は妹が亡くなった原因である。
実際は長男の友人が、妹がお漏らししたことに対し
折檻を行い、死に至らせたという。

2つ目は妹の死体の処理方法である。
実際は、消臭剤と共にビニール袋に入れられた。
しかし、臭いを抑えることが出来なかったため、
これが埋葬に行く切っ掛けとなる。

3つ目、埋葬先である。
実際は秩父の公園、映画では空港前の空き地である。
山を見せたかったからという理由があるらしいが、
埋葬に行く切っ掛けから、臭いのこもらない、
人に気付かれないところへ、という思いがあったに違いない。
映画では、母親曰く明の父親がパイロットだったという伏線があるが、
無味無臭である空港だからこそ、彼がそこを選択したのではないだろうか。
そこは死の臭いを浄化する場所だったとは考えられないだろうか。
妹の手が冷たかったと感覚的に死を悟った明が震えるシーンがあるが、
僕は、実際の臭覚での死の認識を、触覚に置き換えたものに思える。

初めの2つの違いにより、映画は露骨に臭いを意識させない。
しかし、なぜ埋葬場所をわざわざ空港に変えたのかと疑問を持ちながら、
今までの美しいシーンを思い出して初めて、恐らくそこには嫌気が差すような
臭いが満ちていたはずだとはっとさせられる。
そして今までの印象が、全く別のものに見えてくる。
これが、この映画から僕が感じたことである。

同じ時間に、彼等はすぐ先の近所で生きていた。
生きている臭いを閉じ込めながら。
死はどんなに綺麗に描かれても、
放っておくと腐って異臭を放つ。

では、なぜ朽ちていく死体は良い匂いではないのか。
一つは、残った人間へ、死を感覚的に拒否させるため。
つまり、後追いさせない最後の抵抗。
もう一つは、自分が生きていたこと、
そして死んだことを、周りに伝えるため。
最後のメッセージではないだろうか。
posted by 鈴木厚人 at 01:09| Comment(4) | TrackBack(0) | 映画レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
すばらしい視点をもった方ですね。感動しました。
臭いについて私も多少意識しましたが
この方まで深く考えることはありませんでした。
今は亡き淀川長治さんの批評を読むたび視点について考えさせられたものでした。
私もまだまだだなって思いました。
Posted by wakana at 2004年11月01日 11:40
>wakana さん
はじめまして。

wakana さんは、主に洋画をレビューされているようですね。昨日、ビデオで見た「偶然の恋人」というベン・アフレック主演の映画は、私はすごく好きだったので、良かったら見てみてください。このblogでは、できるだけ日本映画と、芝居にも出ている役者を紹介しようと思っています。おすすめの映画、役者がいましたら、是非、ご紹介ください。
Posted by 鈴木厚人 at 2004年11月01日 23:32
wakanaさま。

はじめまして。
コメントを頂き、ありがとうございます。

映画のレビューに関しては、かつてえらく駄目出しされた経験から全く書かなくなっておりました。

自分が理解をして解釈するために書いた解説でしたが、こうやって共感して頂ける方がいると非常に嬉しいです。また、自分は物書きではないので、視点を褒めて頂いたことが何より励みになります。

掲載してくれた厚人もありがとう。
あと、よく「大学時代の友人」というけれど、じゃあ今は違うのか!ということで、これからは「大学時代からの友人」ということにしましょう。ね。

以上。
Posted by “大学時代からの友人” at 2004年11月04日 00:13
“大学時代からの友人”は、劇団印象-indian elephant-の前回の公演「嘘月」に関して、徹底的に批判してくれたので、その意味で、私が最も信頼している友人の一人です。

というわけで、“大学時代からの友人”さん!
「穴鍵」も是非観に来ていただき、厳しい感想をいただけたらと思います。
Posted by 鈴木厚人 at 2004年11月04日 01:00
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