2005年04月20日

「乱暴と待機」について

恋愛劇(ドラマ)の描き方には、
王道的なパターンがあって、
・愛の引力及び運命が二人を結びつけるというロマン主義的描写
・私の好きな人は、私じゃない人を好きという少女漫画的描写
の2点であり、はずすことは論外。
この2点を踏まえて、ディテールをセンスで埋めるというステージに進める。

ただし、現代社会には、自由がある。この自由とは運命の天敵なのである。
愛の引力(運命)というのは、引き離す負の力が強ければ強いほど、
そのまま真逆の正の力に反転する、これを俗にロミジュリ効果という。
けれども、モンタギューもキャピュレットもない今の日本を舞台にする時に、
なかなか、この愛の引力が日常生活に成立しにくい。
そこで、状況を設定する、もしくは、体験を加工することが重要になる。
二人を引き離す負の力を自分達であえて設定して、
それを乗り越えることで、運命を成立しようさせる試みである。

「乱暴と待機」は、僕は、前述した状況設定とその矛盾の物語として見た。
主役の男は、主役の女に、この世で最も惨い復讐を目論んでいる。
ただし、この世で最も惨い復讐というのは、世界で一つだけの復讐なわけで、
考えつくのが難しい。だから、思いつくまで奇妙な同居生活をしている。
非常に滑稽でかつ面白い同居の理由である。

復讐の動機は、過去の電車事故。女のちょっとした言動が原因で、
男の両親は死に、男自身も身体に障害が残ったのだ。だが、
この復讐の動機が、物語の後半に瓦解する。
電車事故は、結局誰のせいでもなかったことがわかるのだ。

過去の交通事故の体験をわざと捻じ曲げて(つまり、体験加工し)
復讐の動機=愛の引力を成立させていたのに、
二人が共に暮らす運命的な動機付けがなくなってしまったわけだ。
その時二人は、どうするか?

自らの手で創り出された愛の引力は、その設定ゆえに、
理不尽は復讐の動機なしには成立しないし、復讐の達成後にも成立しない。
しかし、二人は自らの状況設定に加速度的に固執する道を選ぶ。
女は、女が電車事故の原因であることを主張し続け、
男は、その設定に沿って、この世で最も拙い復讐=思い付きの自殺へと、向かう。

最後には救いがあって、
男は、身体中包帯だらけになって、両手の指切断されつつも、助かる。
そこで、自分達の体験加工があえてなされていたことを知り、幕。
結末はあまり覚えていないのだが、
二人はお互いのかけがえのなさを認めつつも、以前のように、
復讐を待つことで得られていた「愛」を失ったのではないかと、
僕は感じたのだったと思う。
少女漫画的描写は、脇のカップルが担当。
ディテールをセンスで埋めることについても書きたいが、それは割愛。

「乱暴と待機」は、
愛の引力及び運命が二人を結びつけるというロマン主義的描写の、
現代的在り方を、教科書的に示していて、とても才能を感じた。

-データ-
劇団、本谷有希子
第9回公演「乱暴と待機」
@新宿シアターモリエール

出演者
・馬渕英里何
・市川訓睦(拙者ムニエル)
・多門 優(THE SHAMPOO HAT)
・吉本菜穂子
posted by 鈴木厚人 at 12:09| Comment(3) | TrackBack(5) | 舞台レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
TBありがとうございます。
たしかに結末で「以前のような愛」はなくなったでしょうね。その後の彼らがどうなるかも、ドラマになりそうですね。
Posted by しのぶ at 2005年04月20日 22:01
なんだか自動でTBしたら
2個もいっちゃいました。
すみません。

運命と自由。
なるほどと思いました。
ある意味、運命を中心にすえるのは
古いと言うか王道ですよね。

ところで昨日ポツドール見に行ってきました。
これは運命など欠片もない
自由の話なのだなと
ここにきて、あらためて思いました。
Posted by まつがえ at 2005年04月22日 03:41
>しのぶさん、まつがえさん
コメントありがとうございます。

まつがえさん、それは、
ポツドールを見に行けということですかね?
それじゃあ、行って来ようかな。
Posted by 鈴木厚人 at 2005年04月22日 09:00
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